大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(う)2205号 判決

被告人 松田弘

〔抄 録〕

弁護人の所論は、要するに、原判決は、被告人が拾得したユニオンクレジットカード(以下単にカードという)を利用して商品を入手したり、宿泊飲食した行為について詐欺罪の成立を認めたが、カード名義人がカードを喪失しても、ユニオンクレジット株式会社(以下単にユニオンクレジットという)に喪失届が出され、同社から右カードによる信用販売制度に加入している各加盟店(以下単に加盟店という)に対し無効カード通知書が送付されるまでの間に、カードにより商品の販売等をした場合には、加盟店はユニオンクレジットの銀行口座から代金相当額の金員を自働的に入金してもらえることとなっているところ、本件カードの名義人である川田一夫はカードの喪失届を出していなかったのであるから被告人に本件カードを使用されて商品の販売等をした各加盟店は代金相当額の金員を取得することができ、そこに何ら財産上の損害は発生していないから被告人の行為は詐欺罪の成立要件を欠き、罪とならないのに同罪の成立を認めた原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りを犯すものである、というのである。

しかしながら、犯人の欺罔行為により錯誤に陥り、その結果犯人に物品等財物を交付し、あるいは犯人を宿泊飲食させる等してその代金相当額の財産上の利益を提供した場合には、それだけで詐欺罪は成立し、その結果被害者の全体としての財産的価値が減少することは必要ではないから被欺罔者と第三者との関係において私法上あるいは当事者間の約定等にもとづきその損害が補填されることがあっても詐欺罪の成立は妨げられず、またもともと財物の交付、財産上の利益の提供によるそれらの占有の喪失自体を損害と解しうるから前示のように損害の補填があっても財産上の損害が発生しなかったとはいい得ないことは明白であり、結局所論は採用の限りではない。

(千葉 神田 中野)

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